焼き魚を買う
お昼ご飯は友達とラーメンだ!
と子どもが言うので、じゃあ私もどっかに食べに行くかな、
と思ったのですが、以前買ったことのある魚屋で総菜を買うのもいいなと思い、久しぶりに行ってみました。
昔からあるお店で、備長炭で焼く魚がおいしいんです。
店の前に車を止めると、先客がいました。
老夫婦だったのですが、私のほうを振り向いて
「なにもないよ」
と言うのです。
えっ、もう売り切れ?
と思って見ると、焼き魚が並んでいるはずのバットはどれもからっぽです。
「まだ焼いてる最中だから、時間かかるって」
時計を見るとまだ11時です。
奥の焼き場(っていうの?)をのぞきこむと、おいしそうな魚がじゅうじゅうと焼けている最中です。
売り切れじゃなくてよかった。
「焼いとる尻から売れちゃって」
と店の大将は言いました。
「なーんもない、まだ。今焼いとる最中」
老夫婦は焼き立てのブリを包んでもらい、
「よかったーブリがあって」
と言いながら帰っていきました。
もうひとり、先客がいました。
こちらはおじさんです。
ピースを1カートン小脇に抱えています。
「魚ないの?どうしようかな…なんかない?」
「沖ギスならあるで」
「じゃあそれもらおう。二皿」
「あ、ちょうど二皿あるわ」
そう言って大将は奥の棚から沖ギスのバットを持ってきました。
バットは沖ギスがてんこもりです。
二皿ってどれだけでしょう?
まだ残るんじゃないかな…と期待して眺めていると、大将は沖ギスをひとすくいしました。
ふたすくいでひと皿のようです。
ああっ、またすくいました。
二皿目です。
…なくなってしもうた…
てんこもりの沖ギスは全部ピースおじさんに奪われてしまいました。
でも、まだ奥のバットに焼き魚が盛られているのを私は発見しました。
大将はピースおじさんと談笑しています。
私は辛抱強く待ちました。
「ピースは缶がおいしいでしょう」
大将が言うと、ピースおじさんはうなずき、
「でもここらへんじゃ売ってないでしょ」
「あれ、そうですか?」
ピースおじさんが言うには、缶タバコは数キロ離れたショッピングセンターまで行かないと手に入らないようでした。
このおじさんの話しぶりで、この人どうも関東から引っ越してきた人っぽいなと思いました。
このあたりのなまりがなく、ちょっと垢抜けた感じです。
「今じゃタバコを吸うのもなかなかね…タバコ屋もなくなっちゃったし」
「タバコはわしも吸っとったで。1日何十本も。だけど、孫が生まれてからやめた」
と大将が言うと、ピースおじさんは
「いやあ、自分も今は吸うというよりくゆらす感じ」
と答えました。
吸うのとくゆらすのとは違うのか…
そう思いながら聞いていたら、沖ギスが包まれてピースおじさんの手に渡りました。
やっと私の番です。
「おまたせ。なんにしましょ。ブリもあるし、赤魚もあるで…もうちょいかかるけど」
おしゃべりの間に何か魚が焼けるかなと思ってましたが、まだのようです。
「カレイなら焼けとるけど」
ということで、奥の棚にあったカレイに決定です。
2つ頼むと、
「子があるのと無いのとにしとこか」
と言いながら包んでくれました。
子があるほうのひと切れがでかい…
ここの魚屋は地元密着で特に知られているわけではないと思うけど、大将の人柄がとてもよくて、
こんなふうなお客さんとのやり取りも楽しい店です。
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